第十三話

中学の頃から、俺は不良によく目をつけられた。

目付きが気に入らねーとか肩がぶつかったとか、本当にどうでもいい様なことでイチャモンをつけられる。別に髪を金に染めてるわけでも、他人にインネンつけながら歩いてるわけでもないのにだ。おかげで殴り合いの喧嘩なんてしょっちゅうだった。



「そーいや高耶、最近全然ケンカしなくなったよね」

ダラダラと飯を食い続ける昼休み。譲が思い出したように言った。俺はその隣で直江作の卵焼きを箸でつついている。うん。まぁまぁだな。

「ちょっと前までは満身創痍で通学なんてザラだったのにな」
「いやー本当に落ち着いたよね」
「おい、昔は荒くれ者だったみたいな言い方すんな」
「「いや荒くれ者だっただろ」」

きれいにハモる譲と千秋をキッと睨む。

「なんだよ!言っとくけど自分からケンカふっかけたことなんて一回もねーからな」
「はいはい。でもなんか…雰囲気が優しくなったよ」
「…」

それは確かに最近言われる。
前より女子に話し掛けられるのが増えたような気がするし。



昼休みそんな話をしたせいか、懐かしいことを思い出す。
中三の時、一人で六人を相手した事があった。ケンカでは負け無しの俺でも、さすがに顔は腫れ、拳は殴り過ぎて血を流していた。
激しいケンカの末、最後は俺が1人残らず腹蹴っ飛ばして川に落とし、決着をつけた。

でも結局俺は一週間の謹慎をくらってしまった。


別に俺から手を出した訳じゃなかったが、特に弁解もしなかった。
全部どうでもよかった。教師や同級生達からどう思われていようが、全部。

『お前はよくても、俺が嫌だよ』

謹慎になったことを譲に伝えると、俺より怒った顔をしていた。

『もっと、自分を大切にしろよ…!』

心配してくれる家族なんていなかったけど、譲は本気で心配してくれた。包帯を巻いた手を強く握られ、すこし痛かったことを覚えている。
俯いてた顔を上げると、譲が静かに涙を流していた。

『…なんで…』
『お前が泣かないからだよ、ばか高耶』

今でも思い出す。あの時言われた言葉を。

『だから甘えられる人が見つかるまで、俺が代わりに泣いてやる』

甘えられる人が、見つかるまで。
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